肺気腫と慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺気腫は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一つの病態であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の中には肺気腫だけでなく慢性気管支炎や、それらを組み合わせた病態も含まれます。そのため、肺気腫と診断されなくても、症状や検査所見から慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断されることがあります。
肺気腫とは

肺気腫は、肺の奥にある「肺胞」と呼ばれる小さな袋状の組織が壊れてしまい、本来の弾力を失う病気です。肺胞が破壊されることで酸素と二酸化炭素の交換効率が低下し、息切れや呼吸困難といった症状が出やすくなります。主な原因は長期の喫煙であり、進行すると日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙などによる長期的な気道への刺激で引き起こされる進行性の病気で、「慢性気管支炎」と「肺気腫」を含む総称です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんは、咳や痰が長く続いたり、運動時の息切れが強くなったりと、慢性的に気道が狭くなる状態が続きます。
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状は、咳や痰などの症状が長引くほか、徐々に息を吐く力が落ちることで、息切れや呼吸困難などの症状が現れます。これらの症状によって、運動能力が衰え、日常生活の質も低下していきます。
また、このような呼吸器の症状だけでなく、心臓病、不整脈、骨粗鬆症、低栄養、動脈硬化、うつ病など、全身に影響を及ぼす病気であることが分かっており、現在では全身の病気として捉えられています。そのため、呼吸の治療だけでなく、これらの合併症の管理も同時に行うことが不可欠です。
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断方法
呼吸器専門医の院長が丁寧に診察を行います。必要に応じて、呼吸機能検査(スパイロメトリー)、胸部レントゲン検査、CT検査などを行って確定診断を行います。
息切れの程度:mMRCスケール
息切れの程度を評価するために用いられる指標として、mMRC(Modified Medical Research Council Dyspnea Scale)スケールがあります。これは、息切れの強さを5段階で評価する質問形式のスケールです。
肺機能が同じであっても、息切れの感じ方は人によって異なり、mMRCスケールはその個人差を把握するために有効です。また、息切れの程度は寿命とも関連していることが分かっており、重要な指標となります。
| Grade | 息切れの症状 |
| 0 | 激しく運動した時のみ息切れが見られる。 |
| 1 | 平坦な道を早足で歩く、緩やかな上り坂を歩く時に息切れが見られる。 |
| 2 | 息切れによって同年代の方よりも平坦な道を歩くのが遅い、平坦な道をご自分のペースで歩いている時、息切れによって立ち止まることがある。 |
| 3 | 平坦な道を約90cm、または数分歩いた時、息切れのために立ち止まってしまう。 |
| 4 | 息切れがひどく外出できない、着替えをするだけでも息切れしてしまう。 |
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
呼吸機能検査(スパイロメトリー)は、息を吸ったり吐いたりすることで肺の働きを確認する検査です。評価項目は3つあります。
肺気腫(COPD)では、気管支の閉塞の程度を評価するために、1秒率や1秒量が重要な指標となります。特に1秒率が70%以下の場合、肺気腫(COPD)と診断されます。
COPDの重症度は、1秒量の程度や症状の強さによって分類されます。
努力性肺活量:最大限に吸い込んだ後に吐き出すことができる空気の量であり、肺の柔らかさを評価します。
1秒量:1秒間に吐き出すことができる空気の量であり、気管支の閉塞の程度を評価します。
1秒率:1秒量を努力性肺活量で割った値であり、気管支の閉塞の有無を判断する指標となります。
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
の主な合併症
肺気腫やCOPDは、呼吸器の慢性疾患であると同時に、全身にさまざまな影響を及ぼす病態です。以下に代表的な合併症を紹介します。
肺がん
肺気腫・COPDの患者さんでは、肺がんの合併頻度が高いことが知られており、報告によっては約9〜20%とされています。喫煙は、肺気腫・COPD・肺がんのいずれにも関与する主要な危険因子です。
そのため、肺気腫・COPDの患者さんには、定期的な胸部レントゲンやCT検査による肺がんの早期発見が推奨されます。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
COPDの患者さんでは、骨密度の低下や骨折リスクが高まることが知られており、健常者と比べて約1.5倍の骨折リスクがあると報告されています。骨折は寝たきりや認知症の引き金にもなり得るため、骨粗鬆症の予防と治療が重要です。
低栄養
COPDでは、呼吸に多くのエネルギーを使うため、消費エネルギーが増加しやすく、また胃腸機能の低下や食欲不振により栄養摂取量が減少する傾向があります。
BMIが低いほど生命予後が不良になることも知られており、栄養補助食品の活用などによる積極的な栄養管理が必要です。
心血管疾患
COPDの患者さんの約30%に慢性心不全を合併するとされており、その他にも心筋梗塞・心房細動・脳梗塞・脳出血などのリスクが高まります。
息切れの原因がCOPDではなく心不全である場合もあるため、心不全の診断と治療(利尿薬など)を並行して行うことが重要です。
気管支喘息(喘息-COPDオーバーラップ:ACO)
COPDと喘息の両方の特徴を持つ状態はACO(Asthma-COPD Overlap)と呼ばれ、約20%の患者さんに認められるとされています。加齢とともにその割合は増加し、喘息のコントロールが不十分な場合、呼吸機能の低下が加速し、生命予後にも影響します。
このような場合には、吸入ステロイド薬を中心とした治療が推奨されます。
気胸
肺気腫の患者さんでは、肺胞の破壊により肺が過度に膨張し、肺の表面にブラ(嚢胞)が形成されることがあります。これが破裂すると、自然気胸(肺に穴が開き、空気が漏れる状態)を引き起こします。
気胸は突然の胸痛や呼吸困難を伴い、緊急対応が必要な合併症です。再発しやすいため、外科的治療や予防的処置が検討されることもあります。
不安・抑うつ
COPDは慢性的な息苦しさや活動制限を伴うため、不安感や抑うつ症状が高頻度で見られます。日本の調査では、約38%の患者さんに抑うつが認められたと報告されています。
精神的ケアや必要に応じた薬物療法も、呼吸リハビリテーションの一環として重要です。
糖尿病
COPDは糖尿病の発症リスクを約1.5倍高めるとされており、日本人のCOPD患者さんでは約10〜17%が糖尿病を合併しているとの報告があります。
糖尿病を合併すると、入院頻度や死亡率が上昇する傾向があるため、定期的な血糖値やHbA1cのチェックが推奨されます。
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
はなぜ危険?
風邪や肺炎などの感染症をきっかけに、咳や痰、息切れといった症状が急激に悪化することがあります。これを「急性増悪」と呼び、生活の質を著しく低下させ、入院が必要になるケースも少なくありません。入院を繰り返すことで筋力が落ち、栄養状態も悪化していくため、急性増悪の予防はCOPD治療において非常に重要とされています。予防にはインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種、吸入ステロイドの使用などが有効です。もし急性増悪が起きた場合には、抗生物質や吸入薬、ステロイド剤などを用いて速やかに治療を進めます。
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療
まず、禁煙が一番重要です。その上で、薬による治療、合併症への対応と予防、栄養状態の改善、呼吸リハビリテーション、社会的支援、在宅酸素療法、呼吸管理など、様々な側面から総合的に取り組んでいきます。
禁煙
COPDの治療において、禁煙は最も重要かつ効果的な手段です。通常、健康な方でも加齢に伴い1秒量(息を吐く力)が年間20〜30mlほど低下しますが、COPDの患者様ではその低下が年間50〜100mlと大きく進行します。
禁煙をすることで、この肺機能の低下速度を緩やかにすることが可能です。お一人での禁煙が難しい場合は、専門の禁煙外来を活用することをお勧めします。
薬物療法
主に気管支拡張薬の吸入が中心となります。これらの薬剤は、気道を広げて息を吐きやすくすることで、息切れや痰などの症状を軽減します。代表的な薬剤には、抗コリン薬吸入(スピリーバ、シーブリ)や長時間作用型β刺激薬吸入(オンブレス、オーキシス)があります。
症状が重い場合や呼吸障害が重度の方には、これらの薬剤を組み合わせた配合剤(スピオルト、ウルティブロ、アノーロ)が処方されます。また、急性増悪を繰り返す方や喘息を合併している方には、吸入ステロイドを含む配合剤(テリルジー、ビレーズトリ、エナジア)を用いて治療を行います。
さらに、痰の量が多くて排出しづらい場合には、痰を出しやすくする去痰剤(カルボシステイン、アンブロキソール)を併用することもあります。
合併症管理
定期的な検査を通じて、骨粗鬆症や心不全、低栄養などの状態を把握し、必要に応じてそれぞれに対する治療を並行して行います。
特に骨粗鬆症への対策は重要視されており、過去に骨折の経験がある方や骨密度が70%以下の方には、予防薬や治療薬を使用するのが望ましいです。
栄養療法
日々の食事では、高エネルギー・高タンパクの内容を意識し、効率よくエネルギーを補える脂質も適度に取り入れることが推奨されます。低栄養が進行している場合には、医師の判断で栄養補給剤を処方することもあります。
予防接種
肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方は肺機能が低下しているため、感染症にかかると症状が急激に悪化し、命に関わることもあります。こうしたリスクを減らすために、予防接種は非常に重要です。推奨されるワクチンには、インフルエンザワクチン、新型コロナウイルスワクチン、肺炎球菌ワクチンがあります。
在宅酸素療法・在宅人工呼吸管理
COPDが進行して重症化すると、肺で酸素を十分に取り込むことが難しくなり、血液中の酸素濃度が慢性的に低下する状態に陥ります。このような場合には、在宅酸素療法や在宅人工呼吸管理が導入されることがあります。
酸素療法を行うことで、息切れの軽減や生活の質の向上が期待できるほか、余命の延長にも繋がるとされています。在宅酸素療法の適応には一定の基準があり、患者様の呼吸状態や血中酸素濃度などをもとに、適切な酸素流量を設定します。
東京都大気汚染医療費助成制度
大気汚染の影響を受けると推定される疾病にかかった方に対し、一定の要件を満たす場合に、東京都が医療費の一部を助成しています。
18歳以上の方の新規申請は、平成27年3月31日で終了しました。
(現在医療券をお持ちの方は更新できます。)
対象となる方
以下の条件をすべて満たす方が対象となります。
- 18歳未満の方
- 気管支喘息、慢性気管支炎、喘息性気管支炎、肺気腫のいずれかに罹患している方
- 東京都内に引き続き1年(3歳未満は6か月)以上住所を有する方
- 健康保険に加入している方
- 申請日以降喫煙しない方
助成の内容
認定された疾病について、医療券の有効期間内の治療に要した医療費のうち、医療保険適用後の自己負担額(入院時の食事療養標準負担額または生活療養標準負担額を除く)を助成します。
ただし、生年月日が平成9年4月1日以前の方は月額6,000円まで自己負担となります。